コラム(医療法務)
遠隔診療をめぐる法律関係
近年、パソコンやスマートフォン等の情報通信機器が普及し、それらの機能を応用し診療の支援に用いる診療が新しい診療の形として増えてきております。
最近では、遠隔診療を主な事業として手がける会社も出現し、今後も発展していくことが見込まれますので、今回は、遠隔診療をめぐる法律関係についてご紹介します。
※この記事には、令和元年7月31日に、厚生労働省から通知されました「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の改訂内容も反映させております。
遠隔診療が、医師法に抵触しないよう注意!
前提として、遠隔診療をビジネスとして成り立たせるためには、言うまでもなく遠隔診療が適法である必要がありますが、その際、注意しなければならないのが、「医師法」との抵触の有無です。
医師法20条は、医師は自ら診察しなければ、治療、診断書・処方箋を交付してはならないという、いわゆる無診察診療の禁止について規定しています。
遠隔診療が「診察」に該当するかの点について、長年議論されてきました。
仮に、遠隔診療が「診察」に該当するなら、医師が患者と直接対面することなく治療、診断書・処方箋の交付を行っても、医師法20条に違反しないことになるかからです。
遠隔診療の適法範囲は拡大しつつある
遠隔診療が「診察」にあたり適法か否かについては、厚生労働省が、平成9年12月24日に厚生労働省が出した通達(以下、平成9年通達)を皮切りに、複数の通達を出し続け、適法といえる範囲は徐々に拡大されてきています。
ここで、どのような変遷を経ているのか、順を追ってみていきましょう。
平成9年通達においては、「遠隔診療は、対面診療が困難な場合にのみ行われるべき」とされ、離島やへき地における医療等が想定されていました。
平成9年通達は、平成15年に改正され、「症状の安定している慢性期疾患患者に対する治療」に遠隔診療を用いることも可能となり、遠隔診療が可能な具体例が別表として明示されました。
平成9年通達の平成23年改正においては、別表で明示された具体例が例示であることが示され、遠隔診療が適法とされる範囲が広がりました。
平成27年8月10日に新たな通達(以下、平成27年通達)が出され、「遠隔治療の前に、必ずしも対面診療を行わないとならないわけではない」と確認されたことから、遠隔診療を事業として行う企業が相次ぎました。
平成28年3月18日に新たに出した通達(以下、平成28年通達)において、「電子メールやSNSなど、文字および写真のみによって遠隔診療を行い、対面診療を行わずに診察を終えることは、医師法20条に違反する」という見解を示しました。
つまり、文字や写真のみの診察は許されず、映像と音声による診療を一度は行う必要があるということです。
平成29年7月14日に出された通達において、初診から遠隔診療を行える場合やテレビ電話と組み合わせることにより、電子メールやSNSを利用できる場合があることなどを確認しました。
平成30年3月に出された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」において、情報通信機器を用いた診療が新たに「オンライン診療」と定義付けられました。
そのうえでオンライン診療において「最低限遵守する事項」と「推奨される事項」が示され、「最低限度遵守する事項」に従いオンライン診療を行う場合には、医師法第20条に抵触するものではないことが明確される等が示されました。
※これに伴い、平成30年度診療報酬改定において「オンライン診療料」「オンライン医学管理料」等が新設され、保険点数として算定可能となりました。
このように、遠隔診療に関しては、厚生労働省が連続して通達を出しており、規律内容にも変動が見受けられます。
そのため、遠隔診療に関するビジネスを行う場合は、「最新の通達の正確な理解」が必要です。
令和元年7月31日の通達内容と今後の動向
令和元年7月31日、平成30年3月の内容の一部改訂が発表されました(以下、令和元年通達)。
それによって、例えば、今まで、初診においては、原則として直接の対面診療が求められておりましたが、令和元年通達により、患者が医師といる場合のオンライン診療においては、情報通信機器を通じて診療を行う医師が、患者といる医師から十分な情報が提供されている等の要件を満たす場合は、たとえ初診であってもオンライン診療を行うことが可能という見解が示されました。
その他にも、診療計画は2年間保存しなくてはならないこと、原則として医師と患者双方が身分確認書類を用いて本人確認を行うこと、OSやソフトウェア等を適宜アップデートする等、適切な遠隔診療のため、厳格化される項目もありました。
更に、2020年4月以降、オンライン診療を行う医師は厚生労働省が定める研修を受講し、知識を習得しなければならないということも、新たに定められましたので、留意する必要があるでしょう。
※既にオンライン診療を実施している医師は、2020年10月までに研修を受講すること
このように、遠隔診療に関する規定は年々変わり、適法範囲は広がっているように思えます。しかし、遠隔診療が認められるための要件も年々詳細になっておりますので、遠隔診療に携わる方は、常に最新の動向を注視する必要があるでしょう。
「この場合は、適法になるのか」「この通達の解釈が分からない」という疑問や、「患者様と揉めてしまい、どうすれば良いか分からない」等、ご不安をお抱えの方は、当事務所までお問い合わせください。
※この記事は、2019年7月末時点の法令等に基づいたものです。